ギター試奏 ハウザー1世ヴィエナモデルとフリッツ・オベール


最近、以前から気になっていたギター2本を試奏する機会があった。備忘のために記しておこう。

■ハウザー1世ヴェエナモデル1932年作■

ロンドンを中心に活躍中の古楽器奏者:竹内太郎さんとは、数年前にオリジナル19世紀ギターを紹介していただいたのが縁で知り合い、以降時々お会いしている。今回、以前からリクエストしていたヴィエナ(ウィーン)モデルの楽器、それもハウザー1世作のものが試奏可能ということで、帰国のタイミングに合わせて横浜のスタジオまでお邪魔した。
ヘルマン・ハウザーは今日まで100年続くドイツ・ギターマイスターの名門。初代1世作の楽器が1930年代後半にセゴヴィアの目に留まり評価を高めた。ハウザー1世は様々な形式のギター族を作っていたが、このウィーンモデルもその中の典型。セゴヴィアが使い始めたのはスパニッシュスタイルのハウザーギターだったが、おそらくハウザーを最初にみそめたのは、それ以前のウィーンモデルであったろうと竹内さん。シュタウファーのレニャーニモデルを範に取る弦高調節機能と持ち、ボン・キュッ・ボン(^^;のボディシェイプはガダニーニの作を思わせる。材料の見かけにはあまりこだわらなかったとうハウザー1世だが、裏板には美しいトラ目のメイプルが使われている。糸巻は独ライシェル社製。同社がこの頃すでに、現在をほとんど同じデザインでアルミ軸のペグを作っていたことに、竹内さん共々驚いた。

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軽いボディーを抱えて爪弾いてみる。張ってあったアクイーラ社製ナイルガット弦の特性もあって、カリッとした反応よい高音が立ち上がる。サステインも思いのほか長く、少々乱暴な言い方をすれば、19世紀ギターの反応の良さとモダンギターのサステインの長さを併せ持つ感じだ。低音のウルフは軽量ボディーの割に高めでA付近。6弦ローポジションのボリューム感は程々。総体として、軽く反応のよい、それでいて19世紀ギターとはあきらかにテイストが異なる楽器という印象だ。弦高調節機構のおかげで、やや上げて明るく張りのある弾き心地に、あるいは下げて柔らかく調和的な味わいにと変身可能なのが面白い。竹内さんいわく、これまでこの種のウィーンモデルをたくさん見てきたが、やはりハウザ一作は音はもちろん、工作精度、ヴィジュアルデザインの完成度、楽器としての存在感など、一線を画すとのこと。私もまったく同感だった。


■フリッツ・オベール2013年作■

竹内スタジオの帰り道、都内某ギター専門店でドイツの製作家:フリッツ・オベール2013年作のギターを試奏した。フリッツ・オベールのギターは10年ほど前、ギターを再開した頃に一度大阪出張の際立ち寄った楽器店で出会い、そのときの好印象が残っていながら、これまで中々出会いがなかった。トーレスやハウザーのやや古いタイプの楽器に範とした作風で、軽いボディー、低いウルフに反応のいい高音というのがそのときの印象で、今回もそれを期待し、入荷の報があってすぐ試奏の予約を入れた。

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入荷品はハウザー・トーレスモデルと称するオベールのオリジナル仕様。中古扱いながらほとんど傷もない新品といってよい状態で、糸巻にはロジャース社製のハイグレード品、表板裏板ともに極上の材料が使われている。気持ちが悪いほど滑らかなロジャースのペグを回して調弦をしたのち、ゆっくりとスケールを弾きながら音を確認していった。ボディーはおそらく1500グラムを切るか切らないかというレベル。かなりしっかりした作りだ。ネックヘッドはもちろんⅤジョイント。低音ウルフはG#付近で決して低くはないが、6弦ローポジションはG#からEまで十分にボリューム感がある。高音はかなり太めの音で、カリッと鋭く立ち上がる感じではない。これはまだ完成から年月が経っていない若い楽器の特性だ。実は弾く前までは、軽量ボディー・低いウルフ・反応のよい高音という、近頃ずっと追い求めている音を予想していたので、少々落差があった。落差といっても予想との落差であって、この楽器自体が悪いわけではない。具体的にはハウザー1世よりも現役の3世作に近いイメージ。ぼくのハウザー3世作の低音を一段柔らかく豊かにしたような音で、これはこれで魅力的だ。

共にいい楽器だったが、さてどうする。
オベールは予想より少々ガッチリしていたし、ハウザー1世はウィーンモデルの位置付けが、ぼく自身の中ではっきりしていない。適価でのオファーがあるのだが…。 現有楽器との兼ね合いで考えると、やはりモダン(スパニッシュ)スタイルのうち20世紀前半までの楽器、あるいはそのレプリカが当面の要求ということになりそうだ。まあ、要求というより、なかば夢ですけどね。


ハウザー1世ウィーンモデルを弾くスタロビン。 曲、解釈、楽器のよくマッチした演奏。



同じハウザー1世1916年作。ガダニーニ型のもの。



フリッツ・オベール2010年作松・メイプル。米国ギター販売店:GSIの楽器紹介。



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Fritz Ober

久しぶりにお邪魔いたします。

同じ楽器を試奏しました。マエストロ与太さまと似た印象を持ちましたが、一つお尋ねしたく書かせていただきます。

知人が1年違いの同じ楽器(楽器店主によると同じ設計、モデル)を使用しているのですが、その楽器はより低いボディレゾナンスを持ち、深い低音と立ち上がりが早くやや高次倍音が多めの高音を持っているように思えます。そうした違いは同じ設計、モデルと言えどもけっこうあるのが普通なのでしょうか?ちなみに持った感じでは重量も感じ取れるぐらいには違うように思いました。

ご教示いただければ嬉しいです。

Re: Fritz Ober

hsさん、お久しぶりです。

あのオベールを試奏されたのですね。ご友人のものと印象違いましたか…
私も日常的に経験していることですが、一般に音の印象・記憶は本当にあいまいで自信がありません。が、ギターに関しては少しは記憶を頼りに出来るようになりました。あのオベールは随分しっかり、つまり重量も軽くはなく、音も少々剛直といった印象で、以前からオベールに抱いていた印象とかなり違いました。ただ、私が他のオベール弾いたのはずっと以前のことですので、それとの比較は当てになりません。一番いいのは、そのご友人の楽器を持参して弾き比べることでしょうね(^^

1年程度の時差で同じ設計のギターであれば、大きく音は違わないと私は思います。違うとすれが偶然ではなく、製作者が意図的に変えたとみるべきでしょう。もちろん材料による差や製作上の偶然性に起因する違いはあるでしょうか、そう大きくはないと思います。

Re: Fritz Ober

コメントありがとうございます。

確かに直接較べるのが一番まちがいないですね。ただ印象としてかなりの違いを感じたのは
やはり見た目が同じでも異なる意図が製作家にあったのかも知れません。

楽器の選定はいつも難しいものですね。

Re: Re: Fritz Ober

hsさん
あのオベールは、現代的なハウザーを好む人ならジャストフィットの個体だと思います。
そう、悩ましくも楽しい…というところですね。
プロフィール

マエストロ・与太

Author:マエストロ・与太
ピークを過ぎた中年サラリーマン。真空管アンプで聴く針音混じりの古いアナログ盤、丁寧に淹れた深煎り珈琲、そして自然の恵みの木を材料に、匠の手で作られたギターの暖かい音。以上『お疲れ様三点セット』で仕事の疲れを癒す今日この頃です。

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