モントゥーの<英雄>


クラシックに親しむようになってから40年以上の月日が経つが、その間最も多く聴いた交響曲はといえば、間違いなくベートーヴェンだ。貧乏学生時代に何とかやりくりして最初に集めたレコードはベートーヴェンの交響曲だった。全9曲、演奏を聴きながら鼻歌で通して合わせる位のことは今も出来る。しかし近年、ベートーヴェンの交響曲をあまり聴かなくなった。ハイドンやブラームス、そしてシューベルト、メンデルスゾーンあたりを聴く機会が多い。学生時代にあれほど聴いたブルックナーやマーラーを鳴らすことも少なくなった。ベートーヴェンで今でもよく聴くのは何故か第2番と第9番。英雄も運命も7番もすっかりご無沙汰だ。そんな中、実は少し前から英雄でも聴こうかという気分になっていて、今夜は久々に懐かしい盤を取り出した。


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ピエール・モントゥーがアムステルダムコンセルトへボウ管を指揮したもの。1962年録音。手持ちの盤は70年代半ばに出ていたフィリップス系の廉価盤レーベル:フォンタナの1枚。学生時代に初めての英雄のレコードを買おうかと思い品定めをした際、リハーサル風景が収録されているという理由でこの盤を選んだ。もちろん廉価盤という条件は大前提だ。今にして思えば、結果的にいい盤を選んだなあと思う。久々に聴いて、この盤の素晴らしさにあらためて感服した。

第1楽章冒頭の二つの和音。コンサートで指揮者の棒を見ているときは、最初の和音に続いて二つ目の和音が鳴るタイミングは当然分かる。しかしレコードやCDで聴いていると、その二つ目の和音のタイミングがわからない。自分なりのテンポ感で聴いたときにピタリとくる演奏とそうでないものがある。久しぶりに聴いたこのモントゥー盤はそれがピタリときた。その二つの和音のあと、主題の提示は少し遅めのテンポかなあと思っていると、まもなくテンポが少し上がってきて、以降はいい感じのテンポになる。弦セクション、管セクションともにアクセントやスフォルツァンドの処理が実にスマートで、音楽が生き生きとよく流れる。当時のモントクーは最晩年の87歳だったが、まったく年齢を感じさせない。モントゥーは晩年までテンポが遅くならず、すべてが明快だったようだが、この録音を聴くと納得する。

弦楽群は対向配置を取っていて、第2主題などは1stヴァイオリンから2ndヴァイオリン、そして木管群へと受け継がれていくのがよく分かる。これは配置と録音だけではなく、モントゥーとコンセルトヘボウの面々がそれぞれのパートの音量バランスやボウイングなど巧みにコントロールしているからに違いない。展開部の盛り上がりやコーダに向かう終結部でも、各パートがよく分離し、力ずくの混濁感は皆無。それでいて迫力にも不足はない。

第2楽章も久々にじっくり聴くと感動的な楽章だ。終盤のフーガはジワジワと盛り上がり、そのピークを承知していながら、やはり鳥肌物だ。この盤に収録されているリハーサル風景は、第2楽章のもので、冒頭の装飾音付の合わせにかなり時間を使っている。後半の楽章も相変わらずコンセルトヘボウの巧さに耳がいく。武骨さとは無縁で流麗に流れる音楽だが、あいまいなところがない。各パートの出入りや分離が明快だ。加えてテンポ感覚が実にいい。少なくてもぼくにはベストのタイミングで次から次へと音が出てくる。ごく自然体でスコアに忠実な演奏のようだが、細かなところまで配慮が行き届いている。

今回記事に書くにあたって、ネットでこの盤についてググッてみると、ぼくの想像以上に評価が高く、あちこちで絶賛の嵐。一時期はCDが廃盤でプレミアムが付いたと聞いて驚いた。 
久々のモントクーのエロイカ。けだし名演でありました。


この盤の全曲。
このYouTube音源はCDからのものと思うが、この盤の特徴がよく分かる。ぼくの手持ちのLPよりも高音質だ。CDで買い直そうかな…。 第1楽章終盤、例のトランペットは<ほぼ>原典通り。第2楽章のフーガは22分3秒から。右手から聴こえてくる2ndヴァイオリンから始まり、ティンパニを伴った低弦群の入り22分42秒で最初の身震い。ホルンの強奏23分10秒で2回目の身震い。ついで23分23秒ティンパニの一撃で更に身震い。そして23分40秒から緊張MAXだ。




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Author:マエストロ・与太
ピークを過ぎた中年サラリーマン。真空管アンプで聴く針音混じりの古いアナログ盤、丁寧に淹れた深煎り珈琲、そして自然の恵みの木を材料に、匠の手で作られたギターの暖かい音。以上『お疲れ様三点セット』で仕事の疲れを癒す今日この頃です。

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