ファリャ<七つのスペイン民謡集>



好天に恵まれた連休も格別のことなく終了。あすはまた社会復帰だ。夜も更けてきたところで渋茶を一杯。音盤棚を見渡し、こんな盤を見つけたので取り出した。


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テレサ・ベルガンサがスペイン・ラテン系歌曲を歌った<The Spanish Soul>と題された3枚組。もともとクラヴェスレーベルから出ていたものを、例によってブリリアントレーベルがライセンスを受けてリリースした盤。指揮者ヘスス・ロペス=コボスの盤を探しているときに出くわして手に入れた。DISC1にはファリャ:「代官と粉屋の女房」と7つのスペイン民謡、DISC2はスペイン歌曲集としてグラナドス「トナディーリャス(昔風のスペイン歌曲集)」から数曲と、トゥリーナ「サエタ」、DISC3には南米歌曲集としてヴィラ=ロボス、ブラーガ、グァスタビーノといった作曲家の歌曲が収められている。伴奏はフアン・アントニオ・アルバレス・パレホというピアニスト。「代官と粉屋の女房」ではヘスス・ロペス=コボス指揮のローザンヌ室内管弦楽団がバックと務めている。1980年代半ばの録音。今夜はその中からファリャの7つのスペイン民謡集を聴いている。7つの曲は以下の通り。

1. ムーア人の織物
2. ムルシア地方のセギディーリャ
3. アストゥーリアス地方の歌
4. ホタ
5. ナナ(子守歌)
6. カンシオン
7. ポロ

題名通りの歌曲集で、スペイン各地に伝わる民謡や踊りのリズムなどを元に7つの小品に仕立てた曲集だ。極東の彼方からスペインを眺めると、どうも画一的なイメージを持ってしまうが、おそらくスペイン人にとっては、歴史的に諸王国の集まりであった経緯もあって、それぞれの地方でアイデンティティがあり、「一緒にしてくれるな」と言い出すのだろう。折りしもスペイン国内州独立の動きが伝えられていることからもそれは分かる。この7つ民謡集はスペインのほぼ東西南北に渡る地方からモチーフが採られている。陽気な歌あり、内に秘めた情熱あり、歌詞も他愛のない民衆の戯言から成るようだ。オリジナルのピアノ伴奏歌曲以外にチェロやヴァイオリン等によるもの、伴奏をギターに置き換えたものなどが古くから知られていて、スペイン歌曲というジャンルとしてももっともポピュラーな曲の一つだろう。15分で巡るスペイン民謡紀行という趣きの佳曲だ。


ベルガンサによる60年代の録音音源。


ギター伴奏による歌唱。


チェロとギターによる「ナナ」 人気のフランス人チェリスト:フェリー・ガイヤール。



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ハイドン交響曲第44番ホ短調「悲しみ」



昨夜、若杉弘の記事を書きながらYOUTUBE音源を見ていたら、ハイドンの交響曲を指揮する若杉弘の映像を見つけた。曲は第44番ホ短調「悲しみ」。あぁ44番いい曲だなあと聴き入ったこともあり、今夜はあらためてこの盤を取り出した。


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ハイドンの交響曲第44番ホ短調「悲しみ」。デニス・ラッセル・デイヴィス&シュトゥットガルト室内管による全集盤の中の一枚。同時代に作られた第43番変ホ長調「マーキュリー」がカップリングされている。シュトゥットガルトのメルセデス・ベンツ・センターでのライヴ録音。

他の作曲家にもよくあることだが、ハイドンの場合も作品番号(有名なところではホーボーケン番号)が必ずしも作曲順にはなっていない。近年、ハイドンの交響曲はいくつかの時代区分に分けられ、この第44番は1770年前後のシュトルム・ウント・ドランク(疾風怒濤)期に含まれている。この時期の交響曲としてはほぼ作曲年代順に、第38,58,35,59,49,26,41,65,48,44,43,52,42,47,45,46番が含まれ、疾風怒濤の言葉通り、積極的な感情表現の表出や劇的な曲想をもち、ハイドンの交響曲として有名な後期作品とはまた違った趣きの名曲が多い。また、そうした感情表現のためもあってか、短調作品が集中しているのも特徴だ。第26(哀歌),49(受難),44(悲しみ),52,45(告別)番と短調作品が並ぶ。

第44番ホ短調は4つの楽章からなる。第1楽章冒頭は、他の短調作品同様、印象的なユニゾンで始まる。モーツァルトはよく聴くがハイドンにはあまり馴染みがないというむきも、この冒頭を聴くと、モーツァルトの短調作品に勝るとも劣らない曲想に、一気に引き込まれるだろう。第2楽章にメヌエットが配される。厳粛な第1楽章を受け、このメヌエットで和むかと思いきや、この楽章も悲しみをたたえる。これ程に悲しみをたたえた舞曲が他にあるだろうか。トリオではいくらか明るい表情になり、ホルンが美しいハイトーンを奏でる。第3楽章アダージョは、ハイドンが自らの死に際して奏してほしいと言った楽章。弱音器をつけた弦楽群が美しく歌う様はまさに天上の調べだ。終楽章プレストは悲しみの疾走。ヴェイオリン群と低弦群とが、ときにユニゾンで、ときに相対するがごとく突き進む。

デニス・ラッセル・デイヴィス&シュトゥットガルト室内管による演奏は、このコンビらしい折り目正しく過度な演出を排したもの。オケの編成もやや小さめにとっているのだろうか、オーボエ・ホルンとの対比も好ましい。録音はややオンで明瞭度を保ちながらも、程よい潤いもあって聴きやすい。 そういえばこのコンビのボックスセット。もう売り切れと思っていたが、どうやらまだ在庫がある様子。HMVのサイトでは五千円を切る価格になっている。買い逃した輩は今なら間に合うかと。


若杉弘と都響による演奏。1995年東京文化会館。凛とした指揮姿。格調高い音楽。


日本でもお馴染みのジョナサン・ノットとユング・ドイチェ・フィルによる演奏。



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ブラームス(シェーンベルク編)ピアノ四重奏曲ト短調



昨夜の雨があがり、穏やかな土曜日。昼をはさんで野暮用外出。その足で隣り町のマンドリンアンサンブルの練習に参加。ひとしきり楽器遊びに興じて帰宅した。ひと息ついて夜も更けて…。先日来のブラームス押しで、今夜もこんな盤を取り出した。


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アルノルト・シェーンベルク(1874-1951)によるブラームス(1833-1897)ピアノ四重奏曲ト短調の管弦楽編曲版。若杉弘(1935-2009)指揮ケルン放送交響楽団による演奏。1978年のライヴ録音。数年前にALTUSレーベルからリリースされたもの。同じくブラームスの悲劇的序曲がカップリングされている。

若杉弘は70年代から90年代にかけてドイツに根を下ろして完全に現地のスタイルを身に付け、溶け込んで活躍した。音楽や言葉はもちろん、ドイツやヨーロッパの歴史、文化など様々なものに精通し現地の人をも驚かせたという。「指揮者とは音楽的教養だ」と言ったのは誰だったか。 彼こそは日本人にしてその資格を持ち合わせた指揮者だった。この盤には1980年前後、彼がケルンを本拠地としてコンサート指揮者として、また歌劇場のシェフとして活躍を本格化させた時期の録音が収められている。

まったく隙のない、整然とし、かつ深くドイツの伝統に根ざした演奏だ。まずケルン放送交響楽団の音が素晴らしい。弦楽群を中心にすべての音がよく溶け合い、どこかのパートが突出することはない。同時にそれらのブレンドされた音響が決して肥大化してぼってりとはならず、溶け合いながら同時に分離もよい。タクトポイントに対してやや遅れて入ってくるアインザッツがいかにもドイツ風で鳥肌が立ちそうになる。オケのメンバーが互いによく聴き合っているのだろうし、そもそもドイツの音楽、それもブラームスをどう演奏するかを身体で知っているに違いない。そしてもちろんそれらを統率して彼らの力を引き出している若杉弘のコントロールによるところも大きい。

この曲に限らずブラームスの交響曲や管弦楽曲は後期ロマン派ながら構成としては古典的かつ室内楽的に作られていると思うのだが、ついドイツ的重厚長大さを前面に出して、重く肥大化させてしまう演奏も多い。それはそれで一つの魅力ではあるのだが、この若杉弘とケルン放響きの演奏を聴くと、これが本来のブラームスだと納得する。シェーンベルクのアレンジは総じてよく出来ていて、違和感なく楽しめる。原曲のピアノ四重奏版ももちろん渋く素晴らしいが、こうして管弦楽版を聴くと、見落としがちなモチーフや経過句にもスポットライトが当たったようにクローズアップされてくる。スコアを見るとごくシンプルに書かれてはいるが音の響きが厚く、いかにもブラームスだ。また四分音符を刻むパートと一緒に、付点音形や三連符が同時進行するブラームスの特徴的な音形。渋い第1楽章、歌にあふれる第3楽章も印象的。全編これブラームスを聴く楽しみに満ちている。


台湾国立交響楽団による演奏。冒頭から鬱々としたブラームスらしい主題の提示が続き2分10秒過ぎから印象的な第2主題へつながる。その後も息も付かせない充実した音楽が続く。


2011年PROMS。トレヴァー・ピノックのあとを受け、イングリッシュ・コンソートのリーダーとなったアンドルー・マンゼの指揮するBBCスコティッシュ交響楽団による演奏。


若杉 弘×大賀典雄



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ヌヴーのブラームス



今週も程々に働いて終了! 仕事の区切りもちょうどよかったので定時少し前に退勤。帰宅後ひと息ついて音盤タイム。きのうのイッセルシュテットのブラームスで思い出し、こんな盤を取り出した。


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ジネット・ヌヴー(1919-1949)によるブラームスのヴァイオリン協奏曲ニ長調。きのうの記事でブラームス第4交響曲を取り上げたハンス・シュミット=イッセルシュテット指揮北ドイツ放送交響楽団が伴奏付けている。1948年5月ハンブルグでのライヴ録音。1919年生まれのヌヴーが30歳になる直前の録音ということになる。この録音の1年後1949年10月、アメリカへの演奏旅行に向かうために乗り込んだ飛行機が途中アゾレス諸島沖で墜落。30歳の短い命を閉じた。この録音は後年見つかったライヴ録音で、他にもセッション録音含めて、いくつか同曲の録音がある中、彼女の演奏を代表する名盤として今も聴き継がれている。

実際このブラームスは素晴らしい。11歳でパリ音楽院に入り、わずか8ヶ月で卒業したという天賦の才を持つ彼女のヴァイオリンは、若さゆえの情熱も加わり力強く、伴奏を付けるイッセルシュテットも、ブラームスはかくあってほしいというイメージをことごとく音で提示していく。第1楽章冒頭、ヴァイオリンが入ってくるまでのオーケストラパートの演奏からして、まるでブラームスの5番目の交響曲かと思わせる充実した響きだ。

出だしはかなりゆったりとしてテンポで入るが、すぐにテンポを上げ、以降は引き締まった造形ときっちりと整ったアンサンブルを展開する。長い序奏があったのち、ソロヴァイオリンが入る。ヌヴーは多くの奏者やるように最初に音をテヌート気味に保つやり方はとらず、続くスケールに向けて一気に駆け上がる。第2楽章のアダージョもオケ、ソロともに甘くならず緊張感をもって切々と歌う。第3楽章はこの曲ではもっとも扱いが難しい楽章だろうか。下手をすると賑やかなだけのドンチャン騒ぎになりかねない。もちろんこの盤の演奏はそんな懸念をよそに、ラプソディックなエネルギーとブラームスらしい渋さとを両立していて、申し分ない演奏に仕上がっている。1948年のモノラル・ライヴ録音ではあるが、ソロとオケのバランス、ホールトーン等、決して悪くなく、ジネット・ヌヴーの素晴らしさを実感できる名盤だ。


この盤の音源。全3楽章


のだめカンタービレでのワンシーン。第3楽章終盤。ソリストを演じた水川あさみの<演技>も中々のものだ。



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イッセルシュテットのブラームス



このところ朝晩は秋らしい冷え込み。通勤着はもっぱらシャツとジャケットだが、今朝は少し厚手のコットンジャケットを羽織った。ネクタイをしてもそう暑苦しくない。何をするにもよい季節。もちろん音楽を聴くにも、エアコンの送風音から開放されるベストシーズンだ。そして秋と言えばブラームス。久しぶりにこんな盤を取り出した。


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イッセルシュテットと北ドイツ放送交響楽団による交響曲第4番。
ブラームスは四つの交響曲を残しているが、中でも3番と4番の深く渋い味わい、鬱々とした表情は今の季節にふさわしい。ブラームスの交響曲を聴き始めたのは、今から四十年以上前の学生時代。当時からベートーヴェンや他の作曲家の交響曲に比して、ブラームスの曲を聴くことが圧倒的に多かった。部屋の音盤棚を見るとLP・CD取り混ぜて、フルトヴェングラー、ワルター、カラヤン、クレンペラー・、ベーム、ボールト、バーンスタイン、チェリビダッケ、ヴァント、ケンペ、バルビローリ、スウィットナー、サバリッシュ、インバル、シャイー…といった指揮者達の全曲盤が収まっている。その他に全集にはなっていない単発の盤も相当数あって、どうにも止まらない~♪状態。その中にあって、このイッセルシュテット&NDR盤は激渋の一枚だ。手持ちの盤は70年代半ばに廉価盤シリーズで出ていたもの。

ハンス・シュミット・イッセルシュテット(1900-1973)と聞くと、もう名前からしていかにもドイツだ。実際彼はベルリンで生まれ、キャリアのほとんどをドイツで積んだ。英デッカに多くの録音を残していて、ウィーンフィルとのベートーヴェン交響曲全曲やバックハウスをソリストにした同じくベートーヴェンのピアノ協奏曲全曲は今でもそれぞれの曲のスタンダートたる名盤だ。このブラームスの4番では彼の手兵ともいえるハンブルグの北ドイツ放送交響楽団を指揮している。ハンブルグはブラームスの生地でもある。ぼくのイメージするブラームス=暗く雲が垂れ込めた冬の北ドイツ…というイメージにはオケもぴったりだ。

第1楽章の出だし、ややゆったりテンポと渋い音色で曲は始まる。録音も弦楽器を主体としたオケ全体の響きが良くブレンドされたもので、コントラバスのピチカートも深く響く。時折り遠くから聴こえてくるオーボエやホルンの音色も滋味にあふれていて素晴らしい。アンサンブルなどの機能面や、凄み迫力といった点ではベルリンフィルのようにはいかない。しかし、これこそがブラームスだと合点するのだ。第2楽章の終盤、弦が副主題をトゥッティで奏し、その後オケ全体で盛り上がるひと節がある。ブラームスの4番を聴く醍醐味の半分はこの部分とぼくは思っている。イッセルシュテットはここでたっぷりと弦を鳴らすのだが、といって全開にはならない。バーンスタインやバルビローリだとここぞとばかりに歌うところだ(オケが共にウィーンフィルだということも影響しているだろう)。第3楽章も快調に、しかしバランスを崩さずに進む。そして終楽章。イッセルシュテットはここへ来てようやくオケを少しドライブするかのように、力を込める。がしかし決して騒がない。音楽は節度を持って進み、かつ何かが不足する感じはしない。フォルテシモでも爆発せず、絶頂に達しそうで達しない、鬱々と逡巡する。しかし、そんなところこそが、渋いブラームスに相応しいと思うのだがどうだろう。


北ドイツ放送交響楽団は現在、NDRエルプフィルハーモニー管弦楽団という名称になっている。首席指揮者トーマス・ヘンゲルブロックとの演奏。第1楽章冒頭に導入句を付した版で演奏している。この導入句はブラームス自身が一旦書き加えたものの、最終的には盛り込まれなかったというもの。


第1楽章。イッセルシュテットがBBC交響楽団と残したライブ音源。1971年だそうだ。



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最近弾いたギター 2017年初秋<続>



二週間ほど前に、最近弾いたギターについて備忘を記したが、きょうはその続き。時と場所をあらため、今回は都内某所の馴染みの店(前回の巡回は、実は関東圏を脱出していた)。都内での仕事の帰りにうまく時間が取れたので、ついでに立ち寄った。まあ、どちらがついでか怪しいのはいつもの通りだが…。


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「与太です。コンチハ。きょう夕方お邪魔したいのですが、よろしいですか?」と昼過ぎに電話を入れ、「特にトーレスモデルを見たいので…」と付け加えておいた。とっかえひっかえ試奏したのは以下のギター。いずれもトーレスモデルを標榜する作品。例によって製作年など詳細データは伏せておく。

 ジョン・レイ
 マルセリーノ・ロペス(3本)
 大西達郎
 パウリーノ・ベルナベ
 栗山大輔
 尾野薫

そもそも…トーレスモデルといっても、オリジナルのトーレスを簡単に検分することは出来ない。たまたまぼくは数年前に某所で静かな環境でゆっくり弾く機会があったので、多少の印象はもっているが、多くの場合は、こんなものかなと想像するか、録音に残された音でイメージを膨らませるしかない。製作家としても、忠実なコピーを意図するのか、トーレスという歴史的存在から何がしかをイメージしてそれを反映させるのかでは、当然アプローチが異なる。今回の十本近い作品も、そうした様々な意図が混在するものだった。

ジョン・レイはカナダ人ながらスペイン・グラナダで製作を続けている。最近はもっぱらトーレスモデルが有名で、今回みた作品も、外見・音ともに最もトーレスの時代を感じさせるもの。ひと言でいえば、雰囲気のある楽器だ。音も横裏メープルらしい、やや短めの余韻を伴ってコロコロと鳴る。胴はかなり薄いのだが、手元での音量感に不足はない。
ついでマルセリーノ・ロペス。たまたまだろうが、トーレスモデルが3本あって、うち2本は同じモデル。ここ数年の作品だが、仕上げのニスの色合いや作りの各所にアンティークな雰囲気が漂う。ボディーは小型ながら、横裏は中南米ローズ系で、しっかりとした作り。胴の内部で音が響く、19世紀ギターを思わせる鳴り方だった。
大西達郎の作品はトルナボス付き。それもあって、今回弾いた中ではもっとも低いウルフトーンをもち、ほぼ6弦開放Eに共鳴。例によってドーンと腹に響くところは、前回の記事に書いたシンプリシオを思わせる。もちろん当初からトルナボス付きで設計し、トーンバランスを考慮しているものだろうが、やはり音と響き全体が低域シフトするのか、中高音はやや線が細く、かつマイルドな印象だった。
栗山大輔と尾野薫の作品は、いずれも忠実なトーレスコピーというよりは、トーレスからイメージしたものを盛り込んだという雰囲気のギターと感じた。特に尾野氏の作品はかなりがっちりした作りで、音も余分な響きを排し、その代わりに、少し離れて聴くとパワフルな音が前に出てくる。手元での響きが心地良いジョン・レイやロペスの作品と好対照だった。

アントニオ・デ・トーレス(1817-1892)がモダンギター潮流を作った一人であることは確かだろうが、ヴァイオリン族と違って、きちんとした鑑定システムもないギターの世界。トーレス、トーレスと唱えてみても、アマチュア連中の空騒ぎ的なレベルでしかないかもしれない。まあ、それも楽しい道楽の世界ではあります。


トーレスが愛器の松田晃演の演奏。説得力ある音と解釈。


栗山大輔のトーレスモデルを弾くキム・ヨンテ氏。冒頭、ソルのエチュードではギターの音色より先に三度スケール(ダブルストップ)の鮮やかさに耳がいく。ソルのあとタンゴ・アン・スカイ、アルハンブラの思い出と続く。



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バッハ カンタータ BWV130<主なる神よ、われらみな汝を讃えん>



十月スタート。
昔なら、学生の制服やサラリーマンの服装も一斉に変わる時期。会計年度も下期に。万事に季節感が乏しくなったが、合理性視点からの要不要はともかく、こういう区切りを<時節>として楽しむべきかと思いますね。
さて、先週の土曜日9月29日は教会暦で、悪魔と戦い勝利した<大天使ミカエルの祝日>ということになっている。そういえば確か…とこの盤を取り出した。


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少し前に手に入れたアンセルメのボックスセット。その中の<欧州編>にバッハの作品がいくつか収録されていて、<大天使ミカエルの祝日>のためにバッハが作ったカンタータの一つBWV130があったのと思い出した。アンセルメとスイスロマンドによるバッハのカンタータは数曲が残されているようだが、このうちこのセットにはBWV67とBWV130が入っている。

BWV130はトランペット3本、オーボエ3本、ティンパニを要し、以下の5曲からなる。悪魔と戦い勝利したミカエルと天使らを讃える祝祭的な雰囲気に満ちている。

第1曲:コラール
第2曲:アルトのレチタティーヴォ
第3曲:バスのアリア
第4曲:ソプラノとテノールのレチタティーヴォ
第5曲:テノールのアリア
第6曲:コラール

第1曲から活気と喜びに満ちた響き。合唱のソプラノパートがテキストを高らかに歌い、その後ろでは他のパートがメリスマで支え、それにトランペットとティンパニが加わって気分を盛り上げる。第2曲アルトのレチタティーヴォのあと、この曲のメインともいうべき第3曲のバスのアリアが続く。終始トランペットの華やかで技巧的なパッセージが続き、それと呼応してバスも力強く、果敢に戦いに挑む様を歌う。第4曲では一転してソプラノとテノールにより、内省的な短調による短くも美しいレシタティーヴォが歌われ、戦いの終わりが示される。続く第5曲は印象的なフルートを伴ったテノールのアリア。ガヴォット風のリズムにのって明るく穏やかに天使を讃えるテキストが歌われる。終曲は壮麗なコラール。トランペットとティンパニが合唱の後押しをするように高らかに響き、天使を讃える。15分余の比較的小規模な曲だが、全編を通じて典礼的・祝祭的な明るい曲調。日本人気質かどうかわからないが、バッハというと深遠さを追い求めがちだが、こういう曲調もバッハの一面だろう。

アンセルメのバッハカンタータというと少々意外な感じもするが、以前も書いたようにアンセルメ=近代ロシア・フランス物という構図は、甚だ作られたイメージだ。バッハは至極真当。1968年の録音だが、重苦しく引きずるような19世紀的解釈は皆無。各パートともすっきりと分離し、透明な響きが確保され、解釈共々古さを感じさせない。


長らくバッハのスタンダードだったカール・リヒターによる音源。バスパートをフィッシャー=ディースカウが歌っている。


第5曲 フルートを伴ったテノールのアリア…ガンバレ!(^^;



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マエストロ・与太

Author:マエストロ・与太
ピークを過ぎた中年サラリーマン。真空管アンプで聴く針音混じりの古いアナログ盤、丁寧に淹れた深煎り珈琲、そして自然の恵みの木を材料に、匠の手で作られたギターの暖かい音。以上『お疲れ様三点セット』で仕事の疲れを癒す今日この頃です。

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